相互リンク記念ですよ














秋が過ぎ去り冬が顔を出した。
きっと冬に口があればこう言うのだろう。

よぅ、一年ぶりだな。

いや、ほんと当たり前だが一年ぶりの冬だ。
年に何度も冬が訪れるなんてゾッとしない。
私はこう見えて寒がりなんだ。



「おっはよーう」



空を見上げていると後ろから肩を叩かれる。
級友の一人だろう。振り返った先にいる少女の名前は覚えていない。



「あんた、ダレ?」



「……昨日帰りにパフェ食べあった相手に言う言葉か?」



呆れ顔。

そんな目で見ないでくれ、私が変な人みたいじゃないか。
そう言いたかったが、言った後の反応が見えているので口にはしない。
賢明な判断だと自分で思った。



「朝から元気なのは分かった。それで、何のようだ?」



「いや用だとかそんなんじゃなくて、ただ挨拶しただけだよ」



「私の肩を叩く、という行為は長らく平和維持に努めてきた私に対する宣戦布告と見なすが」



「ちなみにそのネタ昨日も使ってたからね」



沈黙。



「まぁ、いいよ。そういえば昨日の宿題――」



沈黙に耐え切れないのはいつも向こうだ。
私は誰も口を開かない静寂の時を苦にしない。

それも偏に両親の存在が大きいところとなる。



「あ、今日って授業参観だっけ」



我が親友、栄美の一言に私の身体は面白いように反応する。
擬音にしてみれば、ビクリッ、だろうか。



「お、その反応はご両親とも来るってことだねぇ」



「どうして君はそこまで鋭いのか」



親友だから、と返事が返ってくる前に私は思考の海にもぐりこむ。

あの両親が授業参観に? そういえば今朝から二人ともやけにウキウキしていた。
来るのか? まさか来るのか?
あの二人が? 日本中を探してもこれ以上ない素敵で愛に溢れて少し――そう、ほんの少し――常識から外れた私の両親が?


あの、相沢祐一、佐祐理夫妻が?




そこまで考えて、私の後頭部に衝撃が走った。













授業参観〜伝説はいつまでも〜  













「おーい、祐?」



「……考え事をしている時にこの仕打ちはひどいのではないかと」



「やはっ、ごめんごめん。でも遅刻するからね」



眼前に突きつけられた腕時計はきっかり八時二十五分を指している。
ここから学校まで歩いて十分。

二人顔を見合わせて走り出す。



「そ、それにしてもっ、お父さんとお母さん来るのって初めてっ、だよねっ?」



「……うん」



スピードを緩めずに角を曲がる。
ドリフトは得意だ。それが三輪車であっても一輪車であっても人生であっても。
人生をドリフトどころか壁を壊してのショートカットで進んできた――否、未だに進んでいる両親から生まれた私だから。



「まずいね……栄美」



「は、はいよっ?」



息を切らせながらも返事をする親友の姿に、これ以上ない信頼を抱きつつ私は訊ねる。



「今日無断欠席しても大丈夫かな?」













私たちの努力を功を奏したのか、遅刻だけは免れた。
担任の姿が廊下の端に見えるほどの僅差だったが勝ちは勝ちだ。
だからそんなに悔しそうな顔をしないで欲しい、担任の上田先生。



「あー、連絡だが。今日は午後の二時間が授業参観だな」



えー、と生徒から声がする。
やはり誰だって嫌がるものだ。高校生にもなって授業参観など。



「うち一つは俺の授業だからな。お前らのありのままを暴き出してやるよ」



うけけ、と笑いながら先生は去っていった。
どうしてあれで先生など務まるのだろうか。



「うちの両親は来ないからね。気楽なものだよ」



「それは裏切りの発言と捉えるがよろしいかな? 栄美くん」



いつのまにか近くまで寄ってきていた栄美を見る。
その清々しいまでの笑顔が今日だけは悪魔の笑みに見える。



「でもみんな噂してるっぽいよ、あの伝説の相沢と倉田が学校に舞い戻る、って」



そう、これも私を悩ませる原因の一つ。

我が父、相沢祐一はこの雪華学園始まって以来の問題児だったらしい。
不良というわけではなく、やることなすこと全てが型破りだったとのこと。
退学生徒の復学署名を集めたり、舞踏会で不沈空母倉田の手を取ったり。
夏にはプールを勝手に入れて露天まで出したという。

それと結婚した母の名は倉田佐祐理。
完全無欠のお嬢様なのだが、どこか抜けているところがある。
笑顔をいつも絶やさないのは素敵だと思うが、笑ったまま吊り天井固めは止したほうがいいと思った。


そんな二人の間に生まれた私がこの学校に入学した際、一番驚いたのはやはり先生方だったろう。
中には二人が在校生だったころの先生もいたらしく、私がどんな生徒か気になったらしい。




「まぁ私は穏やかにこの高校生活を楽しみたかったのだけども」



「何一人で呟いてんの?」



「それより授業が始まる。私はもう少し長考に入るからそっとしておいてくれ」



「はいはい」



栄美が席に着いたのを見ると、私は再び思考に耽る。

どうやってあの両親に騒動を起こさせないか、それを考えるために。













結論として、それは無理なんだよ、と優しい顔の悪魔が囁いたのは昼休みが始まる直前だった。
個人的にはもう少し早く言って欲しかった。
具体的には朝のHRあたりとか。



「だめ、か……」



「諦めなさいって」



親友と呼んだ少女は我関せずを貫いているようである。
まったくもって思いやりという言葉はないものか。


        
ザ・グレート・エスケープ
「あとは最終手段、【大脱走】しかない」



「それやると後が怖いけどね」



私の持ち出した最終手段にも顔色変えずダメ出し。
こいつは本当に親友なのだろうか。

しかし参った。

そうこう考えてるうちに昼休みはすでに残り十分。
うだうだ考える暇はない。



「ってかね。もっとポジティブに考えなさいよ」



「無理」



「あの相沢、倉田って言ったって子どもの前で無茶はしないでしょうよ」



あの両親を知らないから言える言葉。
無茶はしない。
その言葉は数年前から私の中では信じられない言葉三位である。
ちなみに一位は普通の家庭、二位は倦怠期。



「それに四時間目は世界史、五時間目は体育。世界史は担任だし、体育なんてグラウンドじゃない」



「そうだね、すごく不安だ」



「……グラウンド出たら親の目の届かない場所まで逃げたらいいじゃん」



「四時間目終わってその元気があれば、ね」



突っ伏す。最終的に、どう考えてもあの二人から逃げ出せる手段はない。
さようなら、私の平穏な学校生活。



キーンコーン



無情なチャイムに私はのろのろと顔を後ろへ。
いつの間にか入ってきている保護者一同。
輪がこの学校での生活振りが嬉しいのか、目が垂れている。


ガラリ、と前の扉が開いた。
私は両親の姿を見つけられずにいたが、仕方なく前を向いて――固まった。



「やぁ、諸君。みんなのアイドル祐一先生だぞぅ」



「祐一さんっ、格好いいですよー」



…………。



「ぬ、沈黙とは何事か。せっかく指示棒まで持ち出したというのに」



「あ、祐ーさん。祐、見つけましたー」



沈黙というか呆気に取られた教室内に響くお母さんの声。
いや若々しいとかそんなものを通り越してあまりにも場違いだ。

お父さんも一緒になって手を振っている。



「……お父さん、先生は何処へ?」



「おぅ、少し派手な演出がしたいと言ったら快く廊下で待ってると言ってくれたぞ」



あのバカ教師っ!
わざわざこの人の悪戯心が燃えているところにあろうことかニトロを注ぐとはっ!



「まぁあれだ。娘の健やかな学生姿が見れて父さん嬉しいぞ」



「あははー、お母さんも嬉しいですよー」



「そう思うのなら後ろでのんびり見ててくださいっ」
















のっけからすごい始まりだったと思う。

その後、授業が半分くらい進んでから我を取り戻した。
いつの間にか担任が黒板に大きな絵を描いていて、なにやら説明している。
周りにはありのままを暴き出されたのか、灰になっている生徒もいるが見ないふりをした。

というか私の頭の中は猛省という言葉で埋め尽くされている。
不覚、あの両親の行動が予測不能だとは気付いていたがここまでとは。



「うむ、ここに栄えた国の名前を言ってもらおうか。そうだな……頭抱えてる相沢ー」



「……モノモタパ王国」



「おぅ、よく分かったなー。まだ授業でやってない範囲なのに」



担任の戯言が聞こえるがどうでもいい。

問題は、だ。
この四時間目は後ろでニコニコしながら聞いているだけの両親が。
五時間目の体育、何をしでかすか。

シチュエーションを想像してみる。

お父さんはきっと男子の試合かなんかに乱入するだろう。むしろ率先して試合を進めるはずだ。
お母さんに至ってはブルマとか持ち出す可能性もある。
それはまずい。
何が悲しくて母親のブルマなど見なければならないのか。



「おー。んじゃ、そろそろ終わるか。次は体育だから遅れないようになー」



「起立、礼」



号令がかかって生徒が一斉に礼をする。
が、私はそれにも気付かず唸っているだけだった。







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