相互リンク記念ですよ













兎にも角にも五時間目。今日の最終授業だ。

教科は体育。種目は男子女子ともにサッカーらしい。
私としては女子は仲良くテニスと洒落込みたいところだったのだが。



「あーあ、なんでまたサッカーなんかやらなきゃならないのかね」



「その意見には激しく同意したいと思うよ」



栄美と二人でグラウンドに立つ。
伸びをすると、気だるげな表情を見せる栄美の胸元が揺れる。

こう見えても私のスタイルは母親譲り。中々のものだろうと思う。
だが高校に入学してからというものの、この栄美の胸には敵うことがない。
彼女が全校に誇るそのバスト、実にきゅうじゅ――。



「そこまでよ、祐ちゃん」



鋭い視線とともに栄美の地獄突きが喉元に寸止めされる。
どうやら胸元を凝視しすぎたらしい。



「それ以上は考えないほうが身のためだと思うよ」



「いや、でも周りのお父さん方の期待に応えないと」



「ほうほう、つまり相沢祐はこの寒空の中、トップレスでサッカー大会ですか」



「ごめんなさい」



彼女の視線が飢えた獣のソレより鋭くなった辺りで謝っておく。
「有言実行、独断即決」がモットーの彼女にかかれば私は本当にトップレスサッカーの選手になるだろう。

ふと気付けば周りの男子やお父さん方が会話を聞いていたのか、こちらを見詰めている。



「少し目立ちすぎたようだ」



「あんたが人の胸ジロジロ見るからでしょう」



どうやら私が原因らしい。理不尽な。



「おーし、全員整列」



歩きながら号令を出すのは体育教師、鋼鉄のゲンちゃん。
保護者が見守る中、不安の体育は始まった。















授業参観〜伝説はいつまでも〜















五時間目は別にお父さんが教師に扮することもなく、準備体操までは無難に終えた。
もっとも、あの父親のことだ。絶対乱入してくるだろうけど。



「そんなことよりも」



「ん?」



私は足を解しながら保護者集団を見る。



「あそこでカメラ構えてる父親は、自分の子どもを撮っているのだろうか。それとも栄美の乳を撮っているのだろうか」



指差す先、高価そうなカメラを片手にグラウンドを見渡す父親。
まったくもって不愉快な。



「栄美の乳は問題ないが、私の脚線美まで鑑賞されているかと思うと寒気が走るよ」



「あたしゃあんたをここでひん剥いてやりたいよ」



そのとき、件の父親のカメラがこちらを向いた。
あきらかに私と栄美の二人を撮っている。
心なしか口元が歪んで見えるよ。



「……いやほんと勘弁」



そんな父親から逃れるように、私は女子生徒の集まりの後ろへさりげなく歩いた。
すまぬ、私のために犠牲になってくれ。
私はあんな親父のおかずになるなんて耐えられないのだ。



「ちょ、ちょっと隠れないでよ」



「ずるいよー、自分だけ」



ええい、うるさい小娘どもめ。
大人しく私の身代わりになればいいものを。



「ぶげっ」



小さな悲鳴。

何事かと見渡すと、あの親父が沈んでいた。
一体何が起こったのか。あの足元にあるこぶし大の石は大いに関係しているのか。



「はっはっは、祐の美しい足を撮ろうなんて一億年早いってーの」



唐突に後ろから聞こえる声。
聞き覚えがありすぎて困った。



「佐祐理ー、俺の勇姿を見ていてくれー」



「祐一さーん、頑張ってくださーい」



「あんたは生徒じゃないでしょうがっ」



振り向きざまに一喝。
それでもこの男は豪快に笑いながら男子を引き連れている。
なぜか保護者集団からも声援が飛んでいる。

そんな中、相沢祐一はニヤリ、と笑うと口を開いた。



「俺のことをあんたと呼べるとはな。ふっ、俺の胸に『パパ、ちゅーして。ねぇちゅーして』とか言っていた頃の祐が懐かしいぜ」



プチン。



その言葉に私の持つ二十八の堪忍袋のうち、実に十五の尾が切れた。

授業に乱入しただけでは足りず、この私に宣戦布告とはさすがお父さん。
ふざけた物言いで過去をバラすのも余興の一つだろう。
だがその目が物語っている。

『負けたらもっと恥ずかしい過去を暴露してやろう』と。


冷静沈着、三代目クール・ビューティーの異名を持つ私の過去はすさまじいファザコン娘っぷりだ。
それを暴露などされれば、もはや女子生徒のからかいのネタになるのみ。




――全力で倒す!!




「かかってきなさい。そして完璧な敗北というものをお父さんにプレゼントしましょう」



「よかろう。暴露ネタ帳をかけて親娘の勝負と洒落込もうじゃないか」



バチバチッ、と火花を散らしてお互いの視線がぶつかる。
奇しくもここはセンターライン。ボールは――お父さんの足元。



「行くわよっ!」



先手必勝、私の足がお父さんの下のボールへ――ではなく、頭部へと向かう。
角度、スピード、体重の全てが乗った蹴り。

それをお父さんは軽々とスウェーバックで避けて見せた。
流れるような動きは達人芸。
いやお父さんが武術の類を習っているなどということはないのだけれども。



「ふはは、甘いぞ娘よっ」



「狙いはこっちよっ!」



高笑いするお父さんの前からボールを掻っ攫う。
そう、これは格闘技ではなくサッカー。
狙いは最初からボールなのだ。


              
いきあたりばったり
「行くわよ女子っ! 祐を中心に現地作戦発動!」



栄美の声に、女子が猛然と動き出す。
それはもう、男子が威圧されて仰け反るほどに。



そんな中、ドリブルをしながら中央突破する私の前に現れた男子。
確か名前は中村君。クラスでも結構明るい男子だ。

なぜか低く構えて私に叫んだ。



「接触プレイはサッカーの基本! 遠慮なく触らせていただきまーっす!」



「気持ち悪いっ!」



ドゴッ



飛び込んできた中村君を私の飛び足刀が捉えた。




「ぐはぁっ」



「だ、大丈夫か池田ーっ」



「次だ、次の兵を用意しろっ」



叫ぶ男子を尻目に、私は中村君(誤)を踏み潰して進む。
そんな私の目の前に現れたのが、やはりというかお父さん。
それを抜けば私を止められる人はいない。

私はフェイントをかけ、お父さんの目を見た。



「ふふん、その目を窺う仕草。おねしょがバレて、必死で言い訳をした時に似ているな」



プチンッ



もはや周囲の男子の目も気にしない。
きっと女子には明日からからかわれるだろう。
クール・ビューティーな私の偶像は消え去るだろう。

だが。

この男だけは、私が倒す。




「ぅおとうさぁーんっ!!!」










残った十三の尾が切れた私はその後のことは覚えていない。




















「……不覚でした」



「でも祐も格好よかったですよー」



「はっはっは、やはり親娘の触れ合いというものも大切だからなー」



夕食の席で両親が笑っている。
対して、私は今日の事を反省し続けていた。

不覚。不覚。不覚。
お父さんにノせられたことも、冷静さを失ったことも。
今日は猛省しなければ。



「いや、しかし授業参観ってのは面白いな。俺のときは秋子さんは仕事だったし」



「ですねー。私の時も、お父様もお母様も来れない人だったので授業参観はあまり思い出がないですよー」



「……来てくれたことには感謝します」



ひどく疲れたのは私だけなのだろうか。
お父さんはピンピンしてるし、男子達もなぜか活き活きしていた。
女子に至ってはその後お父さんにアタックをしかける輩もいたくらいだ。
お母さんが笑顔で撃退してたけど。



「あの後どうなったのですか? やけに男子の視線が怯えてましたが」



記憶がない私にとって、どんな体育になったのかは重要問題だ。
栄美は「気にするな、人にはそれぞれ裏の顔があるもんだから」とか言っていたけど。
それは私の裏の顔は気にするとヤバい代物なんだということだろうか。



「あははー。さながら中国カンフーの映画でしたよー」



「他の親御さん達からCGかどうか訊かれたぐらいだったからな」



「……もういいです」



ともかく、明日から学校へ行くのが憂鬱だ。
変な称号が付けられているかもしれないし。



「……さようなら、平穏な学園生活……」






相沢祐、十六歳の冬。

雪華学園史上に残る、相沢親子伝説が始まるきっかけとなった日だった。














後書き



相互リンク、ありがとうございましたっ。

どうも、繆也です。【Destination of Truth】という二次創作小説サイトを管理しております。

この度、フォンクス様の【Eternal Way〜永遠の道〜】と相互リンクを結ばせていただきました。

その記念ということでフォンクス様より記念連載小説を受け賜わったので、お返しとして本作品を書き上げました。

時間を縫っての執筆なので、少し文章的に粗い部分が多いかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。

それではっ。

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